お節介なアメリカ (ちくま新書 676) (新書)この本で著者は現代アメリカの政治事情について詳細に論じている。特に9.11のテロ以降における世界状況の分析は冷静かつ客観的で好感が持てる。原著者は「言語学」に革命をもたらした学者として著名なのであるが、思想家としても超一流であることが良くわかる一冊だ。
ノーム・チョムスキー (著), 大塚 まい (翻訳)
内容は言語学者自身の手による書物らしく、やや難解である。しかし訳本では、それを破綻無く訳しきれていると思う。一般に翻訳書と原作は別物である。翻訳とは、言ってみれば、翻訳するさきの国の歴史、道徳観、および宗教観などの諸々の事情に配慮しつつ、原著者の意図が最大限伝わるように「訳す」ことが求められる骨の折れる作業である。文化的背景が全く異なる言語圏の間で書物の翻訳が為されるとき、たとえ文法的に原著に忠実に翻訳したとしても、著者の真意が読者に伝わることは全く期待できない。つまり、一つ一つのセンテンスを忠実に翻訳したとしても、それらの寄せ集を作品として成立させることはできない。その点、この翻訳書は、原著に忠実にあろうと努力しつつも、それとは独立に、日本語で書かれた書物として成立させようとする努力がなされていることが窺われる点において、単なる翻訳以上の仕事が施されている作品と思う。
【内容について】
イラク侵攻にいたる過程、その後のアメリカの対応、特にその「大義名分」が崩れていく様、及びその変節ぶりを明快に描写している。権力者がその意志を決定するにあたって何を重視し何を無視しているのか。
特に印象的なのは「われわれがキューバ危機を乗り切ることができた事実は奇跡であった」の一節である。これは元々、2002年にキューバミサイル危機四十周年を記念してハバナで行われた、キューバ、ロシア、ハバナの主要三カ国が参加する首脳会議で明らかとなった事実を元にしている。
世界はロシアの潜水艦士官ワシリー・アルキポフによって、核による惨禍の危険性から救われたのである。アルキポフは、ロシアの潜水艦がケネディの「臨検ライン」付近でアメリカの駆逐艦から攻撃されていたとき、核弾頭を搭載した魚雷を発射せよとの命令を受けたが、それを退けたのだ。もしアルキポフが命令に従っていたら、その核魚雷発射は、ほぼ確実に核戦争の勃発を招き、アイゼンハワーが警告していたように、「北半球が破滅される」にいたっただろう。
このとき、人類は、まぎれもなく有史以来、最も危険な滅亡の縁に立っていた。我々は、今、このことをしっかりと心に刻むべきである。
人類滅亡の危機は決して絵空事ではなく、不幸なことに、今この瞬間も、更に増している。イラン、パキスタン、アフガニスタン、インド、中国、パレスチナ、ロシア、ロシアの旧衛星国、ベネズエラ、ブラジルでの不穏な政治動向を見るにつけ、我々は、明日もまた同じ平和な1日が来ると期待してはいられないことを認識せざるを得ない。
本書では、唯一の超大国アメリカにおける権力者の意志決定のプロセスと問題点が明確に示されている。アメリカは、何を目的に、この世界をどうしようとしているのか。
関連リンク(翻訳に関して) 川端康成とサイデンステッカー
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