2008年8月16日土曜日

ドーハ・ラウンド

先進国と言われる西側諸国がとりきめた貿易協定が形骸化しつつある。かつては新興国であった国々が、近年進展著しいその経済力を武器に、世界に対する発言力を増強してきた結果である。



世界貿易機関 WTO のドーハでの多角的貿易交渉、ドーハ・ラウンド、の決裂は、世界のパワーバランスが変わりつつあることを如実に示した。




協定締結に中国やインドが強硬に反対した理由は、表向き自国の農業を守るために安易な妥協などできない、ということなのであるが、もちろんその裏には、自国の工業生産と輸出が好調なので特に安易な妥協などせずとも今の好調な経済成長を維持できる、との目算がある。



中国、インド、ブラジルは、安価な労働力を武器に世界の工場として機能してきた。金融面から見る限り、今では、その膨大な資金を米国に貸し出してさえいるようだ。加えて、近年、化石燃料や貴金属などの豊富な天然資源も開発されつつある状況にあっては、わざわざ西側諸国の言いなりになって自国の農業を潰す必要もないというものだ。突き詰めて言えば、たとえドーハ・ラウンドが決裂しても、世界の各国は「世界の工場」から安価な工業製品を買い続ける他選択肢は無いのだ。



もはや世界経済は、中国やインド、それにブラジルといったキープレイヤーを抜きにして語ることはできない。西側主導で始まった「多角的貿易交渉」が、その機能の変更を迫られていることは、有る意味、もっともである。



* * *



WTOの決裂の背後には多くの事情が複雑に絡みあっている。我々に突きつけられているのは、化石燃料の枯渇や地球温暖化、バイオエタノールに関わる副作用・・・、数々の先の見えないパラメータの下で最適な解に到達しなければならないという、非常に困難な最適化の命題なのである。



我々人類が、最終的に最適な解に到達できるという保証は何処にもない。むしろ、それを得ることをあきらめ、その時々において良いと思われる策を見いだすことに全力を注ぎ、一方で、局所的な安定点に陥ることを避けるために、時にその戦略に大きな飛躍を施すことが肝要であろう。多体系の物理シミュレーションが教えるところでもある。





参考)“Globalization’s New Rules” by David E. Sanger, The New York Times, August. 2008.

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